熱中症対策の義務化でやること

事業者の方へ

熱中症対策の義務化で、
事業者がやること

2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則。
何が変わったのか、自社が対象になるのか、今日から何を作ればいいのかを、
厚生労働省の一次情報だけで順に説明します。

「熱中症対策の義務化」とは、暑さを下げることを義務づけた法律ではありません。

2025年6月1日から、暑い場所で働く人がいる事業者には 「熱中症の疑いを見つけた人が誰に知らせるか」を決めること、 「知らせを受けたあと何をするか」の手順を決めること、 「その2つを作業者に知らせておくこと」の3つが義務になりました。 エアコンを付けろ、空調服を配れ、という義務ではありません。決めて、書いて、伝える。それが中身です。

なぜ暑さ対策そのものではなく、こういう義務になったのか。 そこが分かると、あとの話が一本につながります。まずそこから説明します。

このページの流れ
  1. そもそも、何が変わったのか(なぜ「早く見つける」ことが義務になったのか)
  2. 自社は対象になるのか(暑さ・時間の条件と、見落としやすい6つ)
  3. 対象なら、何をすればいいのか(義務の3つ・いつまでに・記録は要るのか・罰則)
  4. では、何を書けばいいのか(厚生労働省の手順例と、入力するだけの雛形)
  5. 空調服は、この義務のどこに位置づくのか
  6. 装備のほかに、現場でできること
  7. 導入費用の負担を軽くする制度

1. そもそも、何が変わったのか

2025年6月1日、労働安全衛生規則に第612条の2という条文が新しく加わりました。 もともとあった条文を厳しくしたのではなく、無かったものが増えた形です。 ここに書かれたのが、上で挙げた3つ(報告体制・悪化を防ぐ手順・作業者への周知)です。

なぜ「暑さを下げること」ではなく「早く見つけること」なのか

この改正の理由は、厚生労働省が全国の労働局に出した施行通達 (令和7年5月20日 基発0520第6号)の冒頭に書かれています。要点を3つに分けます。

被害の規模 令和6年に職場で熱中症になり4日以上仕事を休んだ人は1,195人。調査開始以来もっとも多い人数です
亡くなる人が減らない 熱中症による死亡災害は3年連続で30人以上。労働災害で亡くなった方全体の約4%を占めます
亡くなった原因 通達はこう書いています。「熱中症による死亡災害の原因の多くは、初期症状の放置、対応の遅れである」

3つ目が、この義務化のすべてです。 暑さそのものが直接の死因になっているのではなく、 倒れかけた人がその場で気づかれない、気づいても誰に言えばいいか分からない、 伝わっても次に何をすればいいか決まっていない——この時間の空白で亡くなっている、 というのが行政の見立てです。

だから義務の中身が「暑さを下げろ」ではなく 「見つける・知らせる・手当てする、この3つの段取りをあらかじめ決めて全員に伝えておけ」になりました。 設備投資ではなく、段取りの整備を求めた法改正だと理解すると、以降の条文がすべて読みやすくなります。

義務化のあと、実際はどうだったか

義務化後はじめての夏である2025年(令和7年)の集計が、2026年5月27日に公表されました。 数字だけを並べます。

死傷者数 1,803人(統計開始以来もっとも多い)
死亡者数 19人(前年より12人少ない)
その夏の暑さ 2025年6月〜8月の平均気温の平年差は+2.36度で、統計開始以来もっとも高い

観測史上いちばん暑い夏で、熱中症になった人は過去最多、 亡くなった人は前年より減った、という並びです。 なお、厚生労働省はこの死亡者数の減少が義務化によるものだとは述べていません。 当店も、義務化の効果として説明することはしません。事実の並びとしてお伝えします。

では、この義務は自社にかかるのか。すべての職場が対象ではありません。次で確かめます。

2. 自社は対象になるのか

対象になるのは「暑熱な場所での作業」です。 暑さと時間の両方に当てはまる作業が行われる場合に、義務がかかります。

暑さの条件 WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の環境
時間の条件 連続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれること
根拠 労働安全衛生規則 第612条の2(2025年6月1日施行)

WBGT値は、どうやって知るのか

ここで多くの方が止まります。WBGT値(湿球黒球温度)は、気温だけでなく湿度・風速・輻射熱を 組み込んだ指標で、天気予報に出てくる気温とは別のものです。 同じ気温31度でも、湿度が高ければWBGT値は上がり、風が通れば下がります。 だから「気温が31度に届いていないから対象外」と決めてしまうと、判断を誤ります。

原則 作業場所で実測します。暑さ指数計を使う場合は、JIS Z 8504 又は JIS B 7922 に適合したものを配備することとされています
実測しない方法が認められる場合 通風のよい屋外の作業などで、実測しなくても判断できる場合は、天気予報(スマートフォンのアプリを含む)や、環境省の熱中症予防情報サイトで判断して差し支えないとされています

見落としやすい6つ

通達には、条文だけでは読み取りにくい取り扱いが書かれています。 自社は関係ないと思っていた作業が対象になることがあるので、6つ挙げます。

屋内も対象 屋外の作業に限りません。冷房が止まっている倉庫、厨房、工場のライン、夜間のビル設備点検なども、上の条件に当てはまれば対象です
移動中も含む 出張先での作業、複数の場所へ移動しながら行う作業、作業場所と作業場所のあいだの移動時も含めて判断します
臨時の作業も対象 いつもの作業(定常作業)だけでなく、非定常作業や臨時の作業も対象です。「今日だけの応援作業」も外れません
社員以外も「作業者」 ここでいう作業者は、雇っている労働者だけではありません。同じ場所で作業する労働者以外の方も含みます
元請も下請も、両方に義務 元方事業者と関係請負人が同じ場所で作業する場合、いずれにも義務がかかります。どちらかが実施していなければ、その場所のすべての事業者が違反となります。共同で1つの緊急連絡先を定めて掲示する、という対応例が示されています
対象外でも「努める」 条件に当てはまらない作業についても、通達は「改正省令に準じた対応を行うよう努めること」としています。対象外だから何もしなくてよい、という整理にはなっていません

対象になると分かったら、次は「何を、いつまでに、どこまでやれば済むのか」です。

3. 対象なら、何をすればいいのか

やることは3つだけです。第1章で触れた3つを、今度は条文に沿って中身まで見ます。

  1. 報告体制を決めて、周知する

    自覚症状のある作業者、または熱中症のおそれがある作業者を見つけた人が、 誰に・どうやって伝えるのかを、事業場ごとにあらかじめ決めます。 通達は、責任者等の連絡先と連絡方法を定め、かつ明示し、随時報告を受けられる状態を保つことを求めています。 決めて紙にしただけで誰も知らない状態は、この義務を満たしません。

  2. 悪化を防ぐ手順を決めて、周知する

    作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察や処置を受けさせることなど、 症状の悪化を防ぐために行うことの中身と、その実施手順を事業場ごとにあらかじめ決めます。 これも周知までが義務です。何を書けばいいかは第4章で雛形にしています。

  3. 関係する作業者に知らせておく

    上の2つを、対象の作業に従事する人が事前に知っている状態にします。 「事前に」がここでの要です。倒れてから探すのでは間に合わない、というのが第1章で見た改正の趣旨でした。

いつまでにやるのか

作業日の作業開始前までです。ただし通達は、 連続する同一の作業については、作業日ごとに重ねて実施する必要はないとしています。 毎朝作り直す必要はありません。同じ現場で同じ作業が続くあいだは、一度決めたものが生きます。

どうやって周知するのか

方法は限定されていません。通達が挙げているのは、 掲示・メール・文書の配布・朝礼での口頭です。原則としてどれでもよく、 必要に応じて複数を組み合わせることとされています。 現場に掲示しつつ朝礼で読み上げる、という形が実務では取りやすいはずです。

記録を残して保存する義務は、法令にはありません。 通達は、周知した結果の記録の保存までは法令では求めていないとしています。 ただし労働基準監督署の確認には適切に対応することとされているので、 掲示物そのものや朝礼の記録が残っていれば、説明はしやすくなります。 「毎回サインをもらって台帳に綴じないといけないのか」と身構える必要はありません。

報告体制を実際に機能させる方法

決めた連絡先が使われなければ意味がありません。通達は、 異常を早く見つけるための方法として次を挙げています。

巡視 管理者が作業場所を回って、作業者の様子を直接見る
バディ制 作業者2人1組にして、互いの様子を確認し合う
双方向の定期連絡 一定の時間ごとに、現場と管理者が互いに連絡を取る
ウェアラブル端末 身につけた端末で体調の変化を捉える。ただしこれ単独では十分ではないとされています。人が見る方法と組み合わせます

守らなかった場合

労働安全衛生法 第119条により、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります。 努力義務ではありません。

ここまでが「何を求められているか」です。次は「では、その紙に何と書くか」です。

4. では、何を書けばいいのか

厚生労働省は上の通達に別添を付けていて、そこに掲示の例と手順の例が載っています。 当店の雛形も、この別添の並びに合わせて作りました。 先に、手順に必ず入れておきたい前提を4つ挙げます。書く前に読んでおくと、雛形の中身の意味が分かります。

前提1 どんな様子が出たら「熱中症の疑い」なのか

手順を決めても、何を見て動き出すのかが共有されていないと使われません。 別添には症状の例が挙げられています。

まわりから見て分かる様子 ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗、けいれん など
本人が感じている症状 めまい、筋肉痛、こむら返り、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、体温が高い など

前提2 「意識があるか」だけで判断しない

別添には、はっきりこう書かれています。 「意識の有無」のみで判断せず、①返事がおかしい、②ぼーっとしているなど、 普段と様子がおかしい場合も「異常等あり」として取り扱うこと。

倒れていないから大丈夫、話しているから大丈夫、という判断が、 第1章で見た「初期症状の放置」そのものです。ここは手順書に必ず書いてください。

前提3 判断に迷ったとき、どこに聞くか

救急車を呼ぶほどか分からない、という場面が現実には一番多いはずです。 別添は、迷う場合は放置も先送りもせず、 救急安心センター事業(#7119)や医療機関に相談することとしています。 この番号を手順書に書いておくだけで、現場が迷う時間が減ります。

前提4 その場で回復しても、そこで終わりにしない

別添は2つの注意を書いています。ひとつは、 医療機関へ搬送するあいだも、経過を見ているあいだも、一人にしないこと (単独作業の場合は常に連絡が取れる状態を保つこと)。 もうひとつは、熱中症は時間が経ってから悪化することがあるので、回復の判断は慎重に行い、 帰宅後に体調が急変した場合の連絡体制と対応をあらかじめ定めておくことです。 「作業を早退させたので終わり」にしない、という趣旨です。

厚生労働省が示している手順の流れ

別添の手順例を、文章に直すとこうなります。下の雛形は、この流れをそのまま文面にします。

  1. 熱中症のおそれがある人を見つける(本人の申し出でも、まわりの気づきでもよい)
  2. 作業から離れさせ、身体を冷やす
  3. 様子を確かめる。前提2のとおり、意識の有無だけで判断しない
  4. 異常があると判断したとき → 救急隊を要請し、医療機関へ搬送する
  5. 異常がないと判断したとき → 自分で水分を取れるか確かめる
    • 取れる → 経過を見る。回復すれば終了。回復しない・悪化したら医療機関へ搬送する
    • 取れない → 医療機関へ搬送する

入力するだけの雛形

空欄を7つ埋めると、掲示や朝礼にそのまま使える文面ができます。 上の流れと、前提1〜4の内容をあらかじめ組み込んであります。 入力した内容がどこかに送信されることはありません。お使いのブラウザの中だけで文章を組み立てています。

この雛形は、厚生労働省が示す掲示例と手順例をもとに当店が作ったたたき台です。 現場の作業内容によって、書き足すべきことは変わります。 作業場所や作業内容の実態を踏まえて事業場ごとに手順を定めて差し支えないとされていますので、 そのまま使わず、自社の実情に合わせて直してからお使いください。

体制と手順ができたところで、ようやく装備の話になります。空調服はここに入ります。

5. 空調服は、この義務のどこに位置づくのか

ここまで見てきたとおり、第612条の2が求めているのは体制と手順であって、装備の購入ではありません。 では装備は関係ないのか、というとそうではなく、別の文書に位置づけが書かれています。 厚生労働省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」です。服装について、次のように書いています。

「服装等の選定に当たっては、作業の実態に合わせ、送風や送水により身体を冷却する機能を持つ服やヘルメットの中から適切なものを採用するなど、作業中の深部体温上昇の抑制に資するものを積極的に採用すること。」

「なお、身体を冷却する機能を持つ服を着用することは一定程度有効ではあるが、それのみでは熱中症を防止することは困難であるため、他の対策と組み合わせて実施することが望ましいこと。」

厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」第3の3(5)服装による身体冷却

この2文を並べると、位置づけがはっきりします。

  • ファン付き作業服は「積極的に採用すること」と書かれている、推奨される装備です
  • ただしそれだけで熱中症を防げるとは書かれていません。休憩・水分と塩分・巡視・体制と組み合わせて初めて意味を持ちます
  • 第3章の3つの義務は、装備を買っても消えません。装備と体制は別の話です

第1章に戻ると、この関係がすっきり読めます。 義務化が求めたのは「初期症状の放置と対応の遅れ」をなくす段取りで、 装備が担うのは「そもそも初期症状が出る人を減らす」ことです。役割の場所が違います。 どちらか一方では足りない、というのがガイドラインの2文目の意味です。

当店が「義務を果たせます」と言わない理由。 ファン付き作業服の販売店が「義務化されたので空調服を」と書くのは簡単ですが、 上のとおり装備は義務そのものではありません。事実と違うことを書いて商品を売っても、 現場で人が倒れたときに事業者を守れません。当店は、義務の中身と装備の役割を分けてお伝えします。

装備が担うのは「倒れる人を減らす」側でした。同じ側で、費用をかけずにできることもあります。

6. 装備のほかに、現場でできること

身体を冷やす方法

手順の「身体を冷やす」を具体的に書くと、通達が挙げているのは次の方法です。 第4章の雛形に書き足す形で使えます。

その場でできること 作業着を脱がせて水をかける。氷水に浸かる(アイスバス)。アイススラリー(氷の粒を含む飲料)を取らせる。いずれの場合も一人きりにせず、必ず誰かが見守ります
休憩場所を整える 労働安全衛生規則第614条により、休憩の設備を設けるよう努めることとされています。直射日光を遮る、冷房を入れる、ミストファン等で温度と湿度を下げることが望ましいとされています
教育で伝える 労働安全衛生法第59条・第60条の雇入れ時教育と職長教育には、応急措置の内容が含まれます。新しく入った人と、現場を仕切る人には、必ず手順が届くようにします

業種・作業別の対応例

同じガイドラインが挙げている対応例のうち、代表的なものを紹介します。

屋外の作業 太陽の位置を考えて日陰になる場所で作業する。早朝から始めて早く帰るなど、直射日光の下にいる時間そのものを短くする。休憩場所が遠い場合は、移動時間を考えて休憩時間を設定する
運送・配送 日陰でこまめに休憩する。窓を開けて走るなどして、車内と車外の温度差を作らない。自転車には給水ボトルを付けて、水分を取りやすくする
重量物の運搬 台車やリフターを使う。複数人で作業して、1人あたりの身体への負荷を下げる
屋内・夜間の作業 冷房設備が止まっている場合は、通気性の良い服装を着用させ、単独での作業を避ける
一人で作業するとき 長時間の単独作業を避ける。避けられない場合は、常に連絡が取れる態勢にする

最後に、装備を揃える側の話です。費用の一部が補助される制度があります。

7. 導入費用の負担を軽くする制度があります

60歳以上の方を常時1名以上雇用している中小企業事業者の場合、 ファン付き作業服の購入費が補助の対象になる制度があります。 補助率2分の1・上限100万円で、今年度の申請受付は2026年10月31日までです。 発注してからでは対象になりません。交付決定を受けてから発注する順番が条件です。

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出所

  • 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(令和7年5月20日 基発0520第6号)
    改正の趣旨、暑熱な場所の判断方法、移動中・非定常作業・労働者以外の作業者・混在作業の取り扱い、実施時期、周知方法、記録の保存、別添1(掲示例)、別添2(手順例・症状例)は、この通達によります
  • 労働安全衛生規則 第612条の2(2025年6月1日施行)
    https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-66/hor1-66-8-1-0.htm
  • 職場における熱中症防止のためのガイドライン(厚生労働省)
    https://www.mhlw.go.jp/content/001676299.pdf
  • 職場における熱中症予防情報(厚生労働省ポータルサイト)
    https://neccyusho.mhlw.go.jp/
  • 令和7年の職場における熱中症の発生状況(厚生労働省・2026年5月27日公表)

■ 本ページは、公表されている制度の内容を当店が要約したものです。法令の解釈や個別の事案についての助言ではありません。
■ 自社の作業が対象になるかどうかの判断、労働基準監督署への対応については、所轄の労働基準監督署または社会保険労務士にご相談ください。
■ 記載内容は 2026年8月27日 時点で当店が厚生労働省の公表資料により確認したものです。制度は改正されることがありますので、最新の内容は必ず公式の情報をご確認ください。